2025年(令和7年)11月9日(日)に開催されたホップ記録会に、長野県の強豪陸上クラブ〈軽井沢A&AC〉の代表指導者・跡部定一さんが、クラブ生を引き連れて参加してくれました。

一緒に走ったホップのクラブ生、および観覧席で見守った保護者の方々は、軽井沢A&ACの子どもたちが見せる圧巻のパフォーマンスに驚きを隠せなかったと思います。

どのようにして跡部さんは、全国大会でも上位に入る子どもたちを次々と育成しているのでしょうか。

記録会後に、ホップ代表の川辺コーチ同席の下で、跡部さんに話を聞かせてもらいました(聞き手:ホップ公式ブログ編集長・坂本)。

跡部定一コーチ

何かを学び取りたいという前向きな気持ちが伝わってきた

―― 今日は、お忙しい中、記録会への参加、およびミニ講座の指導をありがとうございました。

もともと、川辺コーチと交友関係があったそうですが、ホップの子どもたちを直接見たり、指導したりする機会は今日が初めてだと聞きます。率直に、ホップの子どもたちはどうでしたか?

跡部(以下、略称):陸上を楽しんでいる子が多く、すてきだなと思いました。何事も伸びていくにはやはり、好き・楽しいという気持ちが大前提に必要です。この雰囲気は個人的に大好きです。

記録会前のウォーミングアップの様子

―― ミニ講座で指導した子どもたちにはどのような印象を受けましたか?

跡部:参加した子どもたちは希望者だったのかな?

川辺:はい。

跡部:希望者のみだったからかもしれませんが、皆すごくいい表情をしていました。何かを学び取りたいという前向きな気持ちが伝わってきました。

記録会後に行われたミニハードル講座の様子

和気あいあいとしたクラブの中に、もっと向上したい、速くなりたいと真剣に考えている子どもたちがいる。こうした子どもたちがクラブの雰囲気を引き締め、全体を押し上げていくのだと思います。

「箸の補助リング」とハードルは同じ

―― ホップ記録会の冒頭でのご挨拶でもあったように、軽井沢A&ACは、ハードル練習にものすごく力を入れていると聞きます。

記録会後のミニ講座でも、ハードルを使った練習を子どもたちに行っていました。素朴な疑問なのですが、ハードル練習にこだわる理由は何なのでしょうか?

ハードルのミニ講座で脚の上げ方を指導する跡部コーチ。ハードルを飛び越える際の脚の上げ方、上体の起こし方は、スプリントの正しいフォームと共通するなどの指導があり、ホップクラブ生たちは熱心に耳を傾けていた

跡部:ハードルを正しく跳ぶ練習を徹底して繰り返すと、スプリント、跳躍など、さまざまな陸上種目の記録向上につながる能力が身に付くからです。

例えるなら、幼児が使う「箸(はし)の補助リング」と同じです。はしが使えない幼児でも、リングに指を通して使えば、箸の正しい持ち方と動かし方が、多少無理やりにでも身に付きます。

ハードルも同じで、ハードルを適切に跳び越えるために必要な脚の上げ方、手の振り方、上体の起こし方を練習すると、スプリントの正しいフォームが自然に身に付きます。

「たくさんダッシュしろ」という根性論が陸上指導の世界には今も昔も幅を利かせていますが、何もない場所でただ走らせるよりも、ハードルなどの道具を使って練習を繰り返した方が、正しいフォームが少ない労力で効率良く身に付くと考えています。

―― この言葉を、川辺コーチはどう考えますか? 

川辺:はい。とても理にかなっていると思います。実際に、陸上指導の世界では、道具を使わずにひたすら走らせるといった指導がたくさん見られます。

その背景には、道具そのものの値段が高い、練習場に持ち込む手間がかかるなどの事情もあるのですが、とにかくたくさん走れば速くなるという根性論も、根強く存在すると感じています。

私自身、現役のころから、自分のコーチがつくってくれた高跳びの踏切台を使うなど、練習を工夫してきました。ホップの練習でも、さまざまな道具を取り入れています。

そんな思いもあったので、跡部先生の指導を体験してもらって、あるいは軽井沢A&ACの子どもたちの姿を実際に見てもらって、道具を使った練習がどれほど大事なのか、ホップの子どもたちにも感じてもらいたいと思い、今回の記録会に来ていただきました。

垣根を超えた交流で子どもたちの経験値が高まる

―― ホップの子どもたちに、軽井沢A&ACの子どもたちの走る姿を見てもらって、何かを感じてもらいたいという言葉が川辺コーチからありました。

跡部コーチは、今日のように、異なる陸上クラブが交流する意義は、どのような点にあると思いますか?

軽井沢A&ACのクラブ生たち

跡部:同世代のアスリートが垣根を超えて混ざり合う体験によって、子どもたちの経験値がものすごく高まると思います。

今回に限らず、うちのクラブは、静岡だとか山梨だとか、県境を越えて他県のクラブと混ざり合う経験を繰り返しています。

県境など、勝手に行政がつくった境界にすぎません。高みを目指す上では、どんどん交流を深めた方がいいと思います。

また、この県境を越える機会は、実は選手だけではなく、指導者にも重要な経験です。「井の中の蛙」のように、狭い県内だけで練習をして全国大会に出ると、会場で出会う他県のコーチの雰囲気に指導者自身が圧倒されてしまう場面があります。

しかし、普段から県外交流を重ねていれば、怖いと勝手に思い込んでいた他県のコーチが本当はすごく気さくな人だと分かるなど、精神的な障壁を超えられるようにます。

川辺:同感です。私の口から何度伝えても伝わらなかった言葉の意味が、クラブの垣根、県境の垣根を越えて同世代の選手と交わらせると、子どもたちにスッと伝わる瞬間があります。

今日の記録会では、同世代の選手同士で、インスタグラムの交換をしている場面も目にしました。

同じ陸上を頑張っている同世代の友達ができるだけでも大変な刺激になると思います。

また、跡部先生のおっしゃるとおり、指導者にとっても大事な機会だと思います。指導者同士の会話の中で、普段考えている疑問や仮説の答え合わせができたりします。

ピリッとしたスパイスが入ってくるとホップはもっと面白いクラブになる

―― 全国大会の上位入賞者を次々と輩出するクラブの代表指導者として、あるいは陸上指導者の先輩として、こども陸上クラブホップが今後もっと力を入れていくといい部分、もっと変わっていくべき部分などはありますか。今日、クラブの様子を実際に見られた上での率直な助言として頂ければと思います。

跡部:繰り返しますが、ホップの子どもたちが陸上を楽しんでいる文化は素晴らしいです。

その上で、あえて欲を言えば、ピリッとしたスパイスというか、アスリート的な線引きが入ってくると、より面白いクラブになるのではないかと思います。

熱心な表情でアップに取り組むホップクラブ生たち

―― アスリート的な線引きとは、どういう意味でしょうか?

跡部:軽井沢A&ACの最初の「A」は「Athletic(アスレチック)」の「A」です。体育的、体操的、運動教室的な部分で、子どもたちを育成する側面があります。

一方で、アンド(&)の後の「A」は「Athlete(アスリート)」の「A」です。アスリートを育成するクラブとして、結果を残すための努力を子どもたちに求めています。この結果を求めて真剣に取り組むカルチャーが、軽井沢A&ACでは代々受け継がれています。

その上、ハードルなどの道具を使った練習法が確立されているので、それこそ私自身が声を掛けなくても、緊張感のある練習は自然に回っていきます。

上級生を中心に子どもたちが自立的に動いていきますので、練習中の私は、草刈りをしている時間の方が長いかもしれません(笑)

軽井沢A&ACのクラブ生たちが見せる緊張感のあるスタートの様子

―― 具体的には、どのような方法でカルチャーをクラブ内で引き継がせているのでしょうか。

跡部:うちのクラブは、小学生と中学生が同じ時間、同じ場所で練習しています。

例えば、ハードル練習をするにしても、中学生と小学生が同じ列に並び、中学生が最初にやって、小学生が後からまねするといった練習スタイルになっています。

入ったばかりの小さい子どもたちは最初、かけっこを楽しく学んでいくのですが、同じ時間、同じ練習場で、結果を求めて努力する上級生の姿をそばで見続けます。結果として、アスリート的なピリッとしたスパイスが自然に身に付いていくのです。

―― 川辺コーチ、跡部コーチの言葉をどう聞きましたか?

川辺:確かに、その線引きについては、うちの伸びしろだと思います。先輩が後輩を教えるカルチャーはまだ育っていないと感じています。

―― 跡部コーチ、ここからホップが、そのピリッとした要素を取り入れるには、具体的にはどうしたらいいと思いますか? 

跡部:先ほどのミニ講座に参加してくれたような意欲的な子どもたちがクラブ内にいるわけですから、そういう子どもたちが、ピリッとしたスパイスをもたらす重要な存在になってくれると思います。

あと、模範になれるような上級生の選手、動ける選手を各教室に連れていって、練習の雰囲気や色を変えてしまうという手もあると思います。

川辺:確かに、おっしゃるとおりだと思います。

上の子と下の子が接触する機会をいかに増やすか、今まさに工夫しているところですし、かけっこ教室に通っている子どもが少しずつアスリートになっていく、そういう仕組みというか方法論を取り入れたいと思っているところです。

―― 「ピリッとしたスパイス」という意味では、今日の記録会で目にした軽井沢A&ACの子どもたちの姿は、ホップの子どもたちにもいい刺激になるのではないでしょうか。

軽井沢A&ACのクラブ生たち(小学生)

同じ陸上競技を習っている同じ小学生でも、こんなに雰囲気が違うんだと感じたホップの子どもたちは少なくなかったはずです。

大人から見ても、オーラに違いが感じられました。私は、全くの陸上の素人ですが、それこそユニフォーム姿から始まって、スタートラインに立つ際の気持ちのつくり方に至るまで、いろいろ違っているように見えました。

川辺:正しいと思います。その意味で今日は本当に、子どもたちにとっていい機会になったと思います。

跡部:ホップの子どもたちを直接見られていなかったので、私にとっても今日はいい機会でした。

富山と長野は予選でぶつかりませんが、今日のような形でかかわったホップの子どもたちが成長して、うちのクラブの子どもたちも成長すれば、全国大会でまた会えます。

「全国大会でまた会いましょう」と言いたいですね。

ーー 「全国でまた会おう」って漫画でしか見ない設定ですね(笑)

ただ、そんな漫画みたいな流れが両クラブの子どもたちの間で頻繁に生まれたらすてきだと思います。

そんな未来を願いつつ、インタビューはこれで終わりとさせてもらいます。あらためまして今日は、ありがとうございました。

川辺:跡部先生、雨の中でのご指導もありがとうございました。

跡部:こちらこそ、ありがとうございました。

(聞き手・文・写真/ホップ公式ブログ編集長・坂本正敬)

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