インタビューまとめ
富山県内を中心に約450人が所属する陸上クラブ「ホップ」が、高岡市内に専用の陸上練習施設を整備し、2026年秋の運用開始を目指しています。背景には、選手の成長を左右する練習環境の問題があります。
競技場や体育館の利用に制約がある中で「仕方ない」と諦めず、必要な指導を実現するために自前の練習場を持つと決めた川辺代表。施設整備に込めた思いと、選手やクラブの未来について聞きました。
成長の度合いが環境で変わる
―― こんにちは。今日は、この秋から高岡で運用を開始しようと準備しているホップ専用の陸上練習施設について教えてください。
川辺:はい。
―― そもそも現状で、どのような工事状況になっていますか?
川辺:基本的に、資材倉庫だった建物を陸上の練習場にしようとしていますので、片付け、壁補修、天井、電気設備の確認、安全設備の設置、清掃など、さまざまな作業を進めているところです。
その中でも特に、陸上の練習施設ですので、床の補修、調整に最も時間と予算がかかっています。

―― ちなみに床は、どんな感じになるんですか? 人工芝ですか?
川辺:いえ、タータンです。床の高低差をモルタルで埋めた上で下地の処理をして厚さ13mmのタータンを敷く予定です。現状、床の高低差を埋める調整が8割ほど完了しました。
―― 直線は、どのくらいの距離がとれるのですか?
川辺:50m弱です。競技場を借りて行うような本格的な練習はできませんが、スペースとしては横にも広いのでマットを置いて走高跳を教えるなど、取り組める練習の種類はかなり多いと思います。

―― そもそも、このような施設をどうして持とうと思ったのですか? 少し見ただけでもかなりの投資額になったと思います。
川辺:なかなかの費用が発生していますし、維持費もかなりの金額になりますが、自分たち専用の練習場をずっと持ちたいと思っていましたし、そう思う明確な理由があったので。
―― どんな理由でしょう。
川辺:大前提として陸上は、練習環境によって成長の度合いがかなり変わってきます。ある意味で、ごまかしが利かない厳しいスポーツです。
私の専門である走高跳で言えば、いくら才能があっても、中学生・高校生の場合、最低でも週2回くらいは跳ばないと試合では勝てません。
そうなると、跳べるようになる環境が大前提として必要になってきます。
私の現役時代は、福光高校、小矢部陸上競技場、砺波市陸上競技場と、身の回りに練習環境がたまたまあったから成長できました。練習のための器具も充実していました。
もちろん、小学生のうちは、神経系の発達を促す時期なので、坂道ダッシュなど、日常に近い環境でも体を動かすチャンスはたくさんあります。
しかし、中学生・高校生の場合は環境が大切です。にもかかわらず、一般的な陸上クラブは、物理的な練習環境を持っていません。
練習器具はある程度、創意工夫で自作し補えたとしても、学校のように校舎や校庭がないため、「いざとなったらここで」という物理的な場所がありません。その点にずっと、問題意識を抱えていて、いよいよ手を付けたという感じです。
「仕方ない」と諦めない
―― 根底にある思いは分かりましたが、公営の練習場を借りてやるという選択肢だけでは何が不十分なのかがちょっとまだ分かりません。
川辺:もちろん、既存の陸上競技場がメインの練習会場にこれからもなるのですが、それぞれの事情や問題が公営の施設にもあります。例えば、タータンがボロボロのまま放置されていたり、冬場の練習場を確保するために体育館を先々に予約しておこうと思っても、年間のスケジュールがもらえなかったり。
タータンの問題に関しては、こちらが直してほしいと思っても、管理者の都合、会場の都合が優先されます。体育館の問題については、雪深い地域なので、他のスポーツを頑張っておられる方々と冬場は特に、バッティングが生じます。
練習環境が大事な競技なのに、練習場所の確保が最大のネックになってしまう。ここに、富山県の陸上競技の弱さの根っこがあると思っています。
―― だからといって、専用の練習場を自分たちで保有しようという決断には普通のクラブではなかなか至らないと思います。クラブの代表として、リスクを取ってまで踏み切った背景にはどんな思いがあるのですか?
川辺:一言で言えば「責任」です。
―― 責任とは、誰に対するどんな責任ですか?
川辺:陸上の指導者として果たさなければならない選手に対する責任です。

例えば、1人の選手が目の前にいたとします。「この子は、これだけのことをやらないと勝てない」と経験のある指導者なら少し見ただけで分かります。
なので、結果から逆算して必要な指導を日々与えていくわけですが、先ほど言ったような練習場の問題があると、本当は課さなければいけないのにできない練習が少なからず出てきます。
その時に「練習場がないんだから仕方ない」と諦めて、できる範囲内で、その場限りの課題を与えるのか、それとも、必要な指導をするための責任をなんとかして果たそうと努力するのか、その違いだと思っています。
選手の成長に責任を持つ、仕方ないでは済まさない、その思いから、予算が足りない部分をDIYで補ってでも、自前の練習場を確保したいと思っていました。
―― 根底にある思いは分かりました。ただ、川辺代表は、コーチであると同時にホップの代表者でもあります。熱い思いの一方で、経営的な面で何か、メリットというかリターンを狙ってはいないのですか?
川辺:もちろん考えはあります。専用の練習施設を保有できれば、ホップのクラブ生の練習場所としても使えますし、個別指導にも自由に使いたいと思っています。陸上指導をする上で最大のネックとなっていた場所の問題からだいぶ解放されます。
中高生の選手たちに関しては、追加の調整をやるべき状況が大会直前に発生したとしても、自分たちの一存で、専用の陸上練習施設を使って調整が細かくできるようになります。
当然、記録的に伸びる選手が増えてくるでしょうし、強い選手が育っていく確率も増えていきます。その結果、ホップのスローガンである「昨日の自分を超える喜びを」を多くの子どもたち・選手たちに与えられるようになります。
練習会場の確保は、安定した練習環境の維持につながりますし、安定した練習環境の維持は、クラブそのものの維持にもつながります。
陸上競技の指導は、練習会場と指導者がマストでそろって初めて成果につながります。その意味で、うちの原井などの優秀なコーチが、よりのめり込んで選手の指導に没頭できる環境を持てるようになります。当然、指導者たちのモチベーション向上にもつながると思います。
この練習会場を持つという計画は6~7年ほど前から、青年会議所のプレゼン大会、ビジネスコンテストなど、さまざまな場所でプレゼンしてきた念願の構想でもあります。
練習場が完成し、ポジティブな変化と影響が生まれていけば、このクラブもいよいよ、次のステージに向かっていけるのではないかと思っています。

―― 確かにそうですね。気が付けば会員数が450人近くになり、クラブ生の数では富山県内最大規模の陸上クラブになりました。そのホップがいよいよ、自分たちの専用練習施設を持つインパクトは確かに大きいと感じます。
オープンに向けて今、いろいろ忙しいとは思いますが、この取り組みに共感してくれる人たちが、選手、保護者、地域、財界・政界に一人でも増えてくれるとうれしいですね。
川辺:そうですね。そんな大口をたたきながら現実の私は今、業者にお願いできない部分をDIYで、ほこりまみれになって頑張っているところです(笑)
秋の早い時期にオープンしたいと思いますので、クラブの関係者にもいろいろな形で順次、アナウンスしていきます。
―― 広報関係は私の出番ですね。
川辺:ただ、DIYもぜひ、手伝いに来てください(笑)
―― 分かりました。今日は、川辺代表の覚悟が伝わってくるインタビューになったと思います。ありがとうございました。
川辺:こちらこそ、ありがとうございました。
-― クラブ生の皆さん、選手の皆さんもぜひ、完成を楽しみにお待ちいただければと思います。
(取材・文・写真/坂本正敬)